台湾各地の日本家屋文化財の保存運動近況
(1)彰化県の群守宿舎群の集落文化財登録に関して
2019年7月17日、彰化県の群守宿舎群の集落文化財登録は成功に至らず。その理由は、建築に特殊性がないという簡単な理由でした。当会でも引き続き保存に向けた支援を行ってまいります。
(2)旧俞大維(旧世良壽男邸)故居に関して
2019年6月28日、以前台北市の文化財登録で成功した旧俞大維(旧世良壽男邸)故居について、台中の文化部で国定古跡の審議会が行われ、当協会も仲間6名が駆けつけ審議会で訴えました。しかし、7月25日に審議が通らなかったとの通知。その事前審査の意見では、建物に特殊性がなく、保存状態もそれほど綺麗ではないという意見が出ていました。
上記の二案件に関しても、当会は歴史人物の重要性から保存を訴えていますが、建築物としてのみの良し悪しだけの審議になってしまい大変残念です。
また、これは台湾の現在の常套句です。審議委員には歴史の専門家がおらず、特に日本家屋の歴史を追究するには、かつて暮らしていた人物や家族像の歴史を知る術もありません。台湾での日本時代の歴史の情報センターのような組織が必要であることを痛感します。
俞大維故居
俞大維故居
(3)溫州街25號(臺靜農教授)
元は1930年代に建てられた民間の木造住宅(所有者不明)、戦後台湾大学の教職員宿舎となり、中国から渡台した中国文学の教授であり、著名な書道家でもある臺靜農氏が晩年に居住。その後も台湾大学のの教職員住宅として使われていました。
2020年1月台湾大学より取り壊しが告知され、それに反対する形で記者会見や価値を伝える運動を展開。民間からの申請により台北市文化局の審議が開始され、5月1日に行われた審議会で建物の特殊性や重要人物が暮らした事実等が評価された結果、文化資産法の「紀念建築」として登録が決まりました。この結果を受け、台湾大学は取り壊し案を撤回、臺靜農教授を記念する施設にしたいという旨表明しています。
臺靜農故居
2020年臺靜農故居保存運動
(4)新生南路三段16巷2(飯沼弘司氏私邸)、3・3-1(衣笠俊男・謙三氏私邸)
元は帝大理農学部科学講座の教員であった飯沼弘司氏と、同じく同学講座教員の衣笠俊男氏、その兄・台湾電力職員の衣笠謙三氏の私邸。戦後は台湾大学の教職員宿舎として使用されていました。飯沼邸は長年空き家となっています。昨年2019年にはご令息の克之氏が台湾を訪れ、生まれ育った家を門の外から見つめました。
2020年2月、保存運動者たちからの台北市文化局への申請により審議開始、3月の現場審査を経て、7月27日に審議会が開催され、建築、人物、湾生の思い、文化的価値といった様々な観点から保存を訴えた結果、文化資産の可能性ありと認められ、とりあえずの取り壊しは回避されました。台北市文化局による温州街全体の調査研究が開始され、調査終了後再度文化資産価値の審議にかかる予定です。